シミュレーションが作り出す薄氷の上の未来
- --「見せかけのトレンドに迷う」アナリストの憂い--
先頃の東京市場の急落を見るにつれ、将来というものがいかに不透明で隠されているものかが実感される。
この連載では、テクニカル分析の能力を測ることによって、予測=将来というものに対するスタンス(心の準備)をもう一度始めから、再構築してもらおうと思っている。
絶対がないにも拘わらず、”何かの絶対的な占いに似た分析”に頼るのは危険である。テクニカルの限界を知り、うまく操ることこそ技術、この連載はそれを検証するためにある。
今回は俗に言う「バタフライ効果」が作り出す薄氷の上の未来を描いてみる。
現在の相場も、ただ単に確率分布が作り上げた見せかけのトレンドと変わらない。我々が平和に暮らせているのも、あの日、アマゾンで羽ばたいた蝶のおかげである。それはいつ崩れるとも知れない未来(現在)なのである。
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- さて、このバタフライ効果は、日本で言えば、「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じこと。あの日、あの時、右に曲がらなかったら、自分の人生は大きく変わっていたと言えば、想像しやすいかもしれない。
必然的に思えるものでも、それは、どれだけ偶然の助けを受けているか知れない。
経済の柱となる株価のトレンドも、単なる確率分布が作り出すお遊びトレンドを変わらないとしたら、「相場のファンダメンタルに基づいた」、「テクニカルよって予測される」、というこれらアナリストにとっての基本的な支えはどこに行ってしまうのだろう。
すこし怖いが先を覗いてみよう。
まず、このチャート1を見て欲しい。なんのチャートかおわかりだろうか。
いずれも日経平均の日足を描いたものであるが、偽物が含まれている。
この中から、値動きだけをみて、本物のトレンドと、偽物のトレンドとを見分けて欲しい。本物が2つ、偽物が2つ入っている。
どれも似たり寄ったりに見える。一つ一つのトレンドを眺めてみるとチャート分析でよく使われる表現がどれにも当てはまりそうだ。
「ダブルボトムをつけてからの反転は、典型的な底打ちだ」、「三尊天井を示している、相場は完成され、だから急落となったのだ」、「抵抗線を抜けてからの動きが早い、しこりがとれたのだ」、と、まあ様々な見方ができる。ではどれが本物か、おわかりだろうか。
共通点はただ一つ。始まりが20170円である、ということだけである。
- さて、偽物の二つのトレンドはこうして作られている。
まず、初期値が与えられる。これは、始まりを20170円とした。(本物のサンプルの株価に合わせたから)
次に、変化のばらつき度合いを示すボラティリティは前日比の標準偏差の推移と共に、与えた。これに、正規分布に沿う乱数(一様乱数ではない)を掛けあせて、日々の株価を決めていった。あとは、勝手に計算される。
そうしてできたのが、この2つの偽物トレンドなのである。
我々、テクニカルアナリストは、これらの偽物罫線に対して、決定的にここが本物と違うといえなければならない。
ヴィトンの偽物と本物の区別がつかない店主に、本物は皮が違う、もちが違うと言われても、その店では買わないであろう。
しかし、この見せかけのトレンドに迷う。
話を少し戻そう。そもそもバタフライ効果とは何を言うのであろうか。
アマゾンの蝶の羽ばたきが、巡り巡ってNY市場の暴落を招くというのは、大げさな話であるが、初期のほんの小さな動きが、遠い未来に大きな影響を及ぼす、という比喩としては、わかりやすい。
未来は小さな未来(現在)の連続の結果である。
そしてその一つ一つの動きが計算できないからこそ、遠い未来はなおさら想像外の世界となるということを伝えたい訳である。
特に、これら確率の世界は、ニュートン力学から、相対論世代までの物理学の世界では否定されてきた、いや、発想できなかった概念である。
それは、偽りのトレンドが、あたかも真のトレンドと同じように振る舞うことと似ている。(今回のチャート1はあえて正解を書かないでおく、どうしても、という方は編集部まで尋ねられたい)
さて明日の動きが確率によって支配され、それが積み重なった結果が未来であるというのなら未来を確実に計る方法などなく、そして、それがテクカル分析の限界といえるのである。
そこには、決まった基本数も、決まったサイクルも存在しない。そのように見えるだけである。
では今までの分析法とは何だったのか。
次のチャート2を見て欲しい。
テクニカル的に読むと、こうである。
Aの21268円をピークにこのトレンドは崩れだした。
下げは、一目均衡表の基本数である129日から3日ずれて(2、3日ずれることは許されている)Bの12000円で止まった。ここから戻りに入り、BからCに到達した。これは一目均衡表の基本数である42日+1日をようしている。また16787円というCの株価は、今回AからBまでの下げ幅の1/2戻りに相当する。
その後、半値戻しを達成したトレンドであるが、ここは一気にはいけないと見えて、再び調整。しかし今度は、BからCの戻り幅の1/2に当たる14560円で下げ止まり、ふたたび回復のトレンドを開始した。
さらに、もっとも重要な上値抵抗線であった、16787円をとると、株価は動きを軽くし、安定した戻り相場が続いた。しかし、Eにおいて、これまで続いてきた支持線を割り込み、アップトレンドが崩れ、調整入りとなった。
すでにTからXの5波動を終了しており高値奪回はしばらく先の話となろう。
テクニカルはまさしく、ぴったり株価の過去の動きを解説してくれる。これだけ読むと、あたかもこれらの基本数や、トレンド、サイクルが、有効のように思える。
しかし、このチャートは実際のものではない。コンピューターがはじいた、気まぐれのランダムウォークである。
さて、この古くから言われているランダムウォークは、テクニカルアナリストの標的になり、数々の物議をかもした。テクニカル派の言い分の多くはこうである。「市場にはトレンドが存在し、過去の経験は有効に使うことができる」
一方、ランダム派はこうである。「世の中のトレンドは適当に動いていて、たまたまそう見えても、それは適当なトレンドとなにも変わらない。」
もう一度、このチャートを眺めてみる。
ここにはトレンドがあり、過去の経験則は役に立っているようだ。しかし、これは、相場という特殊な要因によって作られたものではない。
ただの確率の積み重ねであるのだ。テクニカル分析は、サイコロを投げて作られた罫線を、それらしく解説している。この問いかけに、しっかりとした答えを出せないでいるのだ。
もっと単純ななものをお見せしよう。
チャート3は、運用実績の推移を示したものである。
おそらくAは、ヘッジファンドである。いままではいい具合に運用してきたが、この世界では10年間にわたる成功も、この先の成功を約束するものではない。
それを如実に表しているといえよう。
Bは、近頃頭角を現してきた投信である。昨年までは、ネット株に乗り遅れて、もたもたし、顧客から「なんでお宅の運用は3割しか回らないのだ」と、叱られたらしい。しかし、ネット株の真実、ヘッジファンドの顛末を見て欲しい、ソロスも、タイガーもみな、やられたではないか。そう自慢している投信であろう。
Cは、うだつの上がらない、目先の外資の投信の動きばかりを追っている、ベテランファンドマネージャーの成績である。日本株に自信があれば、配当だけでも取りなさい、といってやりたいところである。
さて、こんな話はよくある話。永遠にうまくいく人も、永遠に失敗する人もいない。相場では、いかに勝ち逃げするかが、技術である。
さんざんもてはやされたヘッジファンドが破綻すれば、テクニカルなんて、なんの利点があるのかと、ファンダメンタル分析の、情報分析の、どこに王道があるのかと、考えなければならない。
テクニカルだけでなく、最先端の相場技術は、役に立っていないではないか。
それは所詮、相場もランダムな確率の結果であるなによりの印である。
(お詫び)さて、実はチャート3もランダムなトレンドである。先ほどのは作り話。
これは、コインを表がでたら1、裏なら−1を加算して推移を見た表である。今回も乱数を用いてシミュレーションを行ったが、動きはまさしく、機械的でなく、乱数的でない。
あたかも人の一生を描いているような線である。乱数でありながら、このようなトレンドが出ることが、実は、人の判断を誤らせているのである。
表か、裏かしか出ず、さらに、確率的には+となるのは、1/2であるのにもかかわらず、流れができる。これを「ついている」というのである。
しかし、実際の評価は違う。
うまくいっている結果だけをとらえて、この方法は、画期的、天才的な方法である。と解釈される。
ただ、単に偶然のトレンドと何も変わらないにも拘わらず、いいと思えてしまう。
こうして作られた伝説は、大きな資金を集め、ポジションを大きくし、ファンドマネージャーは人のいうことを聞かなくなり・・・・
そして、運の尽きたところから、大きな反転相場がやってくるのである。
この繰り返しは、オランダのチューリップバブルからずっと続いていることである。
しかし、何回でも人は繰り返す。
一言でいえば、それは、確率だからである。
確率1/2のコインの裏表でさえ、考えられないようなトレンドが作られる。
まして、複雑な相場が確率によって、様々な様相を呈するのは不思議ではない。
問題は、それを、必然があるかのように、解析することである。
宇宙の法則によって、42日目には、サイコロの1の目が出やすくなります。
これを信じるのだろうか。
我々は今、必然的な幸福への道のりも、不幸への道のりも語ることはできない、確率を、謙虚に受け止め、目先のヘッジを行っていかなければならないのである。
遠い未来は分からない、しかし、明日の天気は分かるのである。
”未来は小さな未来(現在)の連続の結果である”それは、連続であるなら、確率分布に従うとうこと。ならば、ついていなくとも「兜町は明日もある」。
相場を続けていけること、それが、未来を迎える最大の技術なのである。
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